壁いっぱいの膨大な書籍、上手く思考を吐き出すことができず、あちこちにただ放り投げられ続ける白紙の屑、そんな中でまだまだ知識を注入し続ける・・・。
中国出身の写真家・アーティスト、ワン・チンソン(王慶松)の『follow him』(2010年)です。
社会を包むもの、社会に流れるものを批判的な視点で視覚化し、問題提起している作品が多いのですが、特に彼の教育問題に関する作品、私は好きです。
『follow him』 – 「彼に続け!」「彼みたいにしようよ」ということでしょうか。ワン・ソンチンの公式サイトに、この作品の説明としては、こう書かれています。(私の和訳なので日本語へんかもですが・・・)
「2010年の一年をかけて、大量の古本、雑誌、辞書などを購入しました。文学、法律、受験参考書、様々な分野のものを本棚へ並べ、自然に汚れて劣化していくままにしました。本を読み漁る学生の如き、”私”は、白紙の屑が床を埋め尽くす中におり、何もまともな考察を書けずにいるのです。
私は中国の教育問題について訴えているのです。知識は与えられても、本当の意味するところを理解できなければ、学んだとは言えません。勉学というものは、自分の為に学ぶもの、知識そのものを欲して学ぶもの。多くの学生たちは、両親などの世間体の為に勉強しているから、試験が終われば知識は捨てられます。」
主題は分かりやすいし、言葉で問題提起されても、うんうん、そうね、と思うのですが、このような象徴的に視覚化されたものの、訴える力はすごいなーと思うのです。
ワン・ソンチンの作品を見ていると、訴えたいという強い思い、冷徹な目、それと表現者としての高いセンスに圧倒されます。なんというか、深い記憶の奥の方を刺激される感じがするのですが、いつどこのどんな記憶なのかは思い出せない、ただただ感覚的なものだけ思い出す、という不思議な気分になります。そこに大きな魅力を感じます。
『follow him』という作品以外にも、「follow…」で始まる作品がもう2点あります。そちらもとても面白い作品です。
『follow me』(2003年)
『follow you』(2014年)
ワン・チンソンは、湖北省の非常に貧しい地域出身で、高校を出た後は、石油採掘の労働者として働いていたそうです。どうしても美術をしたいという強い気持ちがあって、苦労して美大に入り、学んできたとのことです。苦労した人の作品って、深みがありますよね。
公式ウェブページに色々作品載っています。
www.wangqingsong.com
泥臭い感じ、雑踏感、中国的キッチュ感、どの作品も面白みに溢れています。