10月11日より Netflix で配信される園子温監督の新作『愛なき森で叫べ』の予告編が、昨日、Youtube で公開されました。
椎名桔平主演。園子温監督の作品では、『新宿スワンII』に出演していましたね。今回は冷酷な詐欺師役です。
予告編を見るとコミカルな雰囲気が漂っていますが、園子温作品といえば、ユーモアを織り交ぜつつ、人間というものの形を炙りだすようなグッサリとくる映画が多いので、今回はどのように驚かされるのか、もう今から楽しみです。

園子温監督の作品、全部ではないですが、2000年以降のものは結構見ました。重いテーマを扱っていたり、映像がショッキングであったりしても、どこかお伽話のような雰囲気が漂っています。誇張されたり抽象化されたような描写を通して、観客を異次元に迷い込んだ旅人のようにしてしまう感じです。自分の中にもある元型的なものを映し出されることによって、人間というもの見せつけられる、というような衝撃をいつも受けます。

園子温作品を色々比べてみると、様々な共通項があります。
まず、登場人物の名前、「ミツコ」とか「ヨーコ」とか「村田」とか。違った話の異なる役なのですが、共通の要素のようなのが見えます。
それから、汚された顔、赤いドレス、聖母マリア的なものも、よく出てきますね。

そんな中、やっぱりいつも気になってしまうのが「蝋燭の灯」
心をえぐられるように苦しくなるのが「繰り返される言葉」

そこから感じ取られる意味は、人それぞれだと思うのですが、蝋燭の灯される場面と、引用される言葉をいくつか紹介してみたいと思います。(新しい順から)

『ヒミズ』(2012年)

一番美しい蝋燭の灯の場面といったら、これでしょうね。映画のラストシーン前夜にあたります。茶沢さん(二階堂ふみ)の語る未来像に、住田くん(染谷将太)が涙を流します。未来を想像する力の生まれる瞬間です。

映画は冒頭から茶沢さんの詞の朗読で始まります。15世紀のフランスの詩人、フランソワ・ヴィヨンの『軽口のバラード』です。作中、何度も繰り返される詞となります。

” 牛乳の中にいるハエ その白黒はよくわかる
どんな人かは 着ているものでわかる
天気が良いか悪いかもわかる
林檎の木を見れば どんな林檎だかわかる
・・・(中略)
要するに何だってわかる
血色のよい顔と青白い顔の区別もわかるすべてに終末をもたらす死もわかる
何だってわかる 自分のこと以外なら ”

『恋の罪』(2011年)

美津子(冨樫真)が売春をしている渋谷の廃墟の一室。仕事の時に蝋燭が灯されます。金銭を介在したセックスによって、自分の名前に意味を持たせるという、美津子にとってそれは儀式です。美津子によって、いずみ(神楽坂恵)は開放されていきます。

この映画では、フランツ・カフカの『城』がキーワードになっているのですが、繰り返される言葉は、田村隆一の詩集『言葉のない世界』より『帰途』です。言葉とは何か、意味とは何か、大学教授である美津子の言葉を、いずみは何度も噛みしめるのです。

” 言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる ”

『冷たい熱帯魚』(2011年)

ヤバい映画ですね。蝋燭が灯されるのは、死体解体の場面です。村田(でんでん)に指示され、妻の愛子(黒沢あすか)がバーナーで雑に大量の蝋燭に火を付けます。教会のような雰囲気の小屋、蝋燭の照らされるマリア像、鼻歌を歌いながら料理でもするように血まみれになっている様子は不気味すぎます。

主人公の社本信行(吹越満)が現実の痛さから逃避するように繰り返される言葉は、プラネタリウムのナレーションです。広大な宇宙へと心を漂わせ理想を夢見るのです。

” およそ46億年前に、私たちの住むこの青い星、地球が生まれました。
そして、今からおよそ46億年後に、地球の命が終わると言われています。 ”

『愛のむきだし』(2008年)

0教会に洗脳されたヨーコ(満島ひかり)をユウ(西島隆弘)が拉致し、海辺の廃棄されたバスの中で、夜を過ごします。灯された蝋燭の光はユウの願いであり、洗脳を解きほどこうとする儀式的なものの象徴のようでもあります。

翌朝、海岸で二人がもみ合って、ヨーコが叫ぶ『新約聖書・コリントの使徒への手紙13章』。満島ひかりの熱演がすごいです。その後、ユウはこの言葉を何度も反芻するのです。

” 人々の言葉や御使たちの言葉を語っても、もし愛がなければ、わたしは、やかましい鐘や騒がしい鐃鉢と同じである。・・・
・・・ 私たちは、今は、鏡に映して見るようにおぼろげに見ている。
しかしその時には、顔と顔とを合わせて、見るであろう。
私の知るところは、今は一部分にすぎない。しかしその時には、私が完全に知られているように、完全に知るであろう。
このように、いつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つである。
このうちで最も大いなるものは、愛である。 ”

それ以外にも、『ラブ&ピース』(2015年)や『ひそひそ星』(2016年)にも灯が出てくるんですが、しつこいので、この辺で。

最後に、昨日公開された、10月11日より Netflix で配信される新作『愛なき森で叫べ』の予告編がのリンクを貼っておきます!楽しみです。

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