手塚治虫の代表作というと何が思い浮かびますか?
私の中では、圧倒的に、『火の鳥』です。
1954年~1986年、長期にわたって発表されてきた『火の鳥』は、漫画の神様、手塚治虫のライフワークとも言える作品だと言われていますよね。

私は子供の頃、両親に漫画を買ってもらえなかったんですが、欲しい、欲しいとねだった末、なぜか、この『火の鳥』と『漫画 日本の歴史』シリーズ全巻を買ってもらいました。私が欲しかったものとはだいぶ違ったのですが(笑)。それでも嬉しくて、何十回も読みましたよ。

『漫画 日本の歴史』はもちろんですが、『火の鳥』にも、結構、歴史上の人物が登場します。なので、今でもそういう人物の名前を聞くと、漫画の絵のイメージが頭の中に浮かんでしまうんですよね。子供の頃の刷り込みって、強烈ですね!イラスト的なものだけでなくて、そこに流れる世界感も、自分の中で種となって育っていったように感じます。幼い時にどのようなものに触れるかというのは、大きいですね。自分の中ではキラキラとした宝物のような作品です。

手塚治虫が1989年に亡くなって、シノプシスのみ残し、執筆されなかった『火の鳥 大地編』が、現在、連載小説という形で、朝日新聞の be on Saturday(または朝日新聞デジタル有料版)に連載されています。(桜庭一樹 著)

小説 火の鳥 大地編 オフィシャルサイト

1~5回まで、デジタル版で無料で公開されています。
時代は20世紀初頭、日中戦争下の上海から、物語は始まります。
またこうして猿田博士に再会できるのは、とてもうれしいです。
小説という形で読んでも、散々漫画を読んできたので、頭の中に手塚治虫風の絵が描かれるんですよ。不思議なものです。

この新作の小説を読むにあたり、改めて『火の鳥』全シリーズを通して読み直してみました。何度読んでも、その壮大で世界を俯瞰するような物語に、めり込んでしまいますね。私などに言われるまでもないですが、手塚治虫は天才中の天才だな、と。

全12編を描かれる時代順にまとめると、こんな感じになります。(エジプト・ギリシャ・ローマ編は除く)

作品名 時代 舞台 内容 発表順
黎明編 3世紀 熊襲・倭 社会の形成
大和編 4世紀 – 古墳時代 熊襲・大和 作られる歴史
鳳凰編 8世紀 – 奈良時代 奈良 思想で捉える生
羽衣編 10世紀 – 平安時代 三保の松原 時空を超えて
乱世編 12世紀 – 平安時代末期 京都、平泉など 権力争い
異形編 15世紀 – 室町時代 琵琶湖の北 罪と償い
太陽編 7世紀 / 21世紀 近江 / 日本 政治と宗教
生命編 22世紀 日本、ペルー クローン人間
望郷編 ?(23-24世紀あたり) 惑星エデン17、地球 宇宙へ植民開拓
復活編 25世紀 地球 AI、ロボット
宇宙編 26世紀 宇宙 愛憎、罰
未来編 35世紀 地球 生命の滅亡

発表された順を見ていくと、最も古い3世紀から描かれ、次に一番未来の35世紀、そこから振り子のように過去に行ったり未来に行ったりしながら、現代に近づいて行きます。

最後の『未来編』で全ての生命が消え去り、30億年の時を経て、また最初の『黎明編』へ戻るというループ構造で、過去だと思ったものが未来であり、未来だと思ったものが過去にもなり、時間というもの相対性が消えていくような感覚に陥ります。

ミクロの世界から地球や星々、あらゆる生命体、宇宙に包まれる森羅万象すべてに満ちているエネルギーの化身として「火の鳥」は描かれます。今ある私の肉体も一時の姿であり、生きとし生けるものは輪廻転生を繰り返し、「火の鳥」から現れ「火の鳥」に取り込まれるのです。
私たちの代表者のような「猿田彦」(色々な名前有)が物語全体を通して、語り手の様に登場します。彼は何度も生まれ変わり、ある時は卑劣であり、ある時は聖者のようであり、人の弱さとしぶとさ、可能性などを見せてくれます。

そういった世界観を、魅力的なデザインの漫画に落とし込み、受け取り手側の器量を問わない、個人個人の心に響くような作品を作った手塚治虫って、本当すごいですよね。

全体としては、「生」が語られているのですが、各編、様々なテーマが織り交ぜられているので、今後、時々、一遍ずつ内容をまとめていきたいと思います。

カテゴリー: Book