夜空の美しい写真と、それを表す豊かな言葉たちを集めた、天文写真家の林完次さんの素敵な本です。
なかなか眠れないな、なんて時、夜な夜な私はこの本のページを捲っているんですが、神秘的な世界にとても癒されます。移り変わる夜空の風景がすっかり自分の手の中にあり、日本語の美しさに触れて夜空はもっと魅力的になり、心に映し出されたその空間に吸い込まれそうになる・・・。
言葉って不思議ですよね。
夜空を見上げて、漠然と美しいな、とか思っても、その概念をはっきりと表せない場合、もやもやっとして、それはなんとなく心を通過して行ってしまうもの。言葉という記号で、その概念を浮き彫りにすると、その光景は自分自身の心に鮮明にとどめることができるし、その言葉を共有する人となら共感できるかもしれない。言葉を知ることで、世界はより豊かに広がっていくのだと思います。
この本には、月を表現する言葉だと、おそらく100以上は載せられていると思うんですが、それぞれの言葉が持つ月の表情は、少しずつ違います。例えばですね、「月影」という言葉だと・・・
”月、または月光、さらに月の形、月の姿、あるいは月の光でうつる影”
なんだか、「月影」っていう言葉に含まれる概念は、「月」という言葉の中から趣とか心に響く部分を抽出したような感じがします。
それぞれ言葉の説明の後には、その言葉を含む和歌や俳句が載せられています。
”秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさや(藤原顕輔・新古今和歌集)”
これは百人一首にも入っている有名なのですね。
「月影」という言葉の概念を心に描けると、この和歌の情景がより魅力的に迫ってくるような気がします。
日本語って美しいですね。
私は子供の頃、国語が嫌いでした。新しい言葉に出会って辞書を引くなんていう作業は苦痛でしかありませんでした。(というか、ほとんどしませんでした 汗)言葉を知ることで世界が豊かになっていく、ということを心から感じられるようになったのは大人になってからです。今こうしてこの本を捲りながら、この感覚をあの頃の私に教えてあげたいな、なんて思ったりするのです。
どんな分野で生きようとも、私たちは言葉の世界に生きてるって。
言葉を超えた世界へも、言葉を知らないと辿り着けないって。
一応目次を書いておきます。
1.月の章、 2.夜の章、 3.天の章、 4.春の星の章、 5.夏の星の章、 6.秋の星の章、 7.冬の星の章
このシリーズ、他に『空の名前』、『色々な色』があります。3冊とも写真とそれを表す言葉集で、とても素敵な本です。
『空の名前』は、『宙の名前』の昼バージョンのような感じで、「雲」「水」「氷」「光」「風」「季節」に関する言葉が集められています。
『色々な色』は、自然や染め物、焼き物に関する色の言葉が集められ、とても興味深いです。
私は自分で買いましたが、3冊セットでプレゼントにも最適かと思います。
贈る相手にもよるかもですけど、すっごくセンスのある人って感じになるかと思います 笑