今週、椎名林檎さんのニューアルバム『三毒史』が発売されましたね!
オープニングを飾るのは、先月、先行リリースされていた『鶏と蛇と豚』。
ここ1カ月、散々聴きましたよー。
冒頭、『般若心経』の読経から始まり、インパクト凄いです。

林檎さんの不思議な世界・・・

歌詞は英語だし、仏教感強いし、MVはやたらと壮大で色々意味ありげだし、心を鷲掴みにはされるけど、いったいそれは何なのか、この作品について色々な見方が出来ると思うのですが、私なりの考察、まとめてみたいと思います。

「鶏・蛇・豚」・・・それは、仏教の三毒「貪・瞋・癡」の象徴です。
すなわち、鶏は「欲・貪り」、蛇は「怒り・憎悪」、豚は「疑い・無知」。

「六道輪廻図」という輪廻転生を表す図の中心に描かれ、鶏、蛇、豚はそれぞれが尾を噛み合い、人間はこの3つの煩悩をぐるぐると繰り返し、苦しみの根源とされています。

MVでは、僧侶らしき人が手印を結び、『般若心経』を唱えることで始まり、それをかき消す形で三毒(鶏・蛇・豚)が現れ、東京の街を練り歩き、煩悩で街をいっぱいにして、林檎さんの元へ招集されるという流れです。

歌詞を見ていくと、「私」が「蜜」(快楽)を味わう過程を表しています。

蜜の味(快楽)を「欲」し、「貪り」、それに嫌気がさし「憎悪」し、「怒り」が込み上げ、蜜は誰かの仕込んだ毒ではないのかと「疑い」、何かがおかしいと思うのです。

そして、その後に来る結論で、こう歌っています。

” 愛するのは、自分だけ。
目で視て、耳で聴いて、鼻で嗅いで、指で触れて、そして舌で味わった
私の体験こそが、何にも代え難く尊いのである”

これは、「無知」です。
一見、少し次元の高い結論、生き方への答えが出ているように見えますが、それはまだ浅はかな結論であり、「無知」を脱しておらず、こうしてまた三毒のリンク、最初に蜜を味わっていた「欲」へと戻るのです。

ここで思い出されるのが冒頭の『般若心経』です。
般若心経と言えば、「色即是空 空即是色」、色あるもの(知覚されるもの)は全て「空」であると説かれて、私たちの持っている五感、そこから認識されるものも全て「無」であると打ち消します。

「私」が出した結論とは真逆ですね。それゆえ、「私」は「無知」であるのです。ただ、歌詞にある通り、”やっぱりおかしい”ということには気が付いているわけで、ただ流されているわけではなく「考える」という段階にいるということだと思います。


少し視野を広げて「六道輪廻図」を眺めると、「三毒」の周りには太極図的な「人間の進化」があり、さらに輪廻をする「六道」があり、それが起こる原因「十二縁起」が描かれています。

そんな具合に、林檎さんのこの曲も、ただ中心にある『鶏と蛇と豚』のみを聴いていても、狭い理解のような気がします。

『三毒史』、アルバム全体で見ると、もっと完成した世界が見えてきます。
オープニングの『鶏と蛇と豚』は、物語のプロローグであり、その本当の結論は、エンディングの『あの世の門』にあるのだと感じました。
歌詞を抜粋します。

”(火も水も風も土もない)
(貪も瞋も癡も薬もない)

私自身が宇宙そのもの
時間さえ丸ごと包んでいる
果てしない観念こそ全体で
その外には何の要素もない
私自身が起源そのもの
凡そ全てを兼ね備えている
果てしない永遠がただ一つ
この中には何の境界もない
乾きも飢えも覚えずにいる
丁度いい全能として安らぐ”

ここで、『般若心経』に説かれていた世界が描き出されます。ここまで来ると、悟りの境地のような風景ですね。六道輪廻図を包括したような世界感です。

さて、もう一度オープニング『鶏と蛇と豚』に戻ります。
僧侶の『般若心経』は真理です。そこへの道のりは読経によって示されましたが、圧倒的な「三毒」に打ち消され、世界は「煩悩」で満たされます。

『三毒史』の幕開けです。さらにMVをよーく見てみると、アルバムの挿入歌のMVがちらっとだけ見えたりします。

『神様、仏様』の東京タワー、林檎さんの後ろ姿
『長く短い祭』のダンスフロア―
『獣行く道』のミヤジさん
『目抜き通り』の銀座の時計台

これから『三毒史』巻き起こりますよーっていう予告かと思います。

アルバム全体、12曲目まで三毒に侵された世界にどっぷりと漬かった後、13曲目、林檎さん的『般若心経』の解釈かと思われる『あの世の門』で締めくくられます。もうそこは「三毒」の消え失せた世界です。「三毒史」の「史」とは「出来事の記録」であり、「三毒」はすでに過去の出来事になっています。

因みに、『鶏と蛇と豚』の英語でのタイトル名は、『The Gate of Life』で、つまり、「生の門」をくぐり始まり、「あの世の門」をくぐって終わるのです。

いやー、壮大ですね。圧倒的過ぎます。
まだまだ色々隠されていそうな感じがするので、いっぱいいっぱい聴きたいですね!